遣僕使ブリュッセル便り(7)

 

趣味が自分に腹を立てさせる

 

 

 小生の趣味の一つに、友人、知人を突然訪ねることがある。子供たちからも「相手の人に大変迷惑」とやめるように忠告される。しかし、忠告を無視し、今日までこの趣味を続けてきた。小生の言い分は「尋ねることを知らせると、必ず相手は予定を変更したり、何かと準備する。突然だと準備や予定変更の心遣い不要なので迷惑はかからない」のだ。それでもこれまで国の内外、小生の趣味の犠牲者になった数知れない方には、この場を借りてお詫びを申し上げる。

 

 思い出す範囲で、一番遠く突然訪問したのはニューヨーク郊外の方である。住所だけを頼りに何とか目的の家にたどり着いたが留守であった。留守である場合も多い。相手には全く責任がないので、会えないことで残念に思うが「折角遠くから来たのに」と言う思いは全く起きない。留守を含めての趣味なのである。

 

 ブリュッセル滞在中、いわゆる観光をしたり市内を散策することは、小生の体調の故に皆無である。が、先日、どうしても一度趣味をしたくなり夫婦で実行したのである。それはライデンにおられるM夫妻を尋ねたことである。M夫妻は、小生が1968年「キリスト者学生会(KGK)」を通して信仰告白に至った時、後輩たちの尊敬の的であった。また、Mさんが訳したKGK新書 M・ロイドジョーンズの著書で信仰の土台が築かれた。Mさんはイスラエルに留学し英国や豪国で教えられ、20数年前からライデン大学で教鞭をとっておられるのは知っていた。また、日本に帰国されたときや「ヨーロッパキリスト者の集い」でお会いしたことはあった。しかしゆっくりお話をお聞きしたことはなかった。それでブリュッセルからライデンは約300㎞の近さなので、またとない機会と思い、趣味が首をもたげたのである。

 

 牧師館を朝8時前に出て、12時前にライデンに着いた。駅前はライデン大学があり、学生と大学関係者ばかりという雰囲気だった。ちょうど昼時だったのでお訪ねするのは1時半ころにした。がM夫妻は留守だった。置き土産を玄関ドアのノブに引っ掛けて帰途についた。

 

 駅に着くと、乗換駅ロッテルダム行きが丁度あり、飛び乗った。それで夫婦して思ったより早く帰宅できるとほっとした。ロッテルダムで特急は約1時間後しかなかった。仕方なく待ち、車内でゆっくり食べようと、発車時刻間際に大好物のアイスを思いきり買いホームへ行った。ところが駅員が「ブリュッセル行きはホームが変わった。急いで」と教えてくれた。慌てて山盛りのアイスとソフトを持ちながら急いだが列車は発車した後だった。結局アイスはホームのベンチで食べた。次の列車は1時間後である。この列車は当初M夫妻にお会いした場合に予定したものであった。結局、帰宅時間は最初の予定通りだと何となく受け入れられた。

 

 ところが、この列車がブリュッセルイ約30分遅れ、しかも予定の中央駅でなく、南駅に変更になった。そのため帰宅したのは当初の予定より約1時間も遅くなっていた。それで小生は自分を抑えられず、自分に腹が立った。「こんなに遅くなったのは自分の趣味のせいだ」、誰も責められないからである。妻と話し出すと自分の中の立腹が出て収拾がつかなくなるので、できるだけ口を利かず寝たのであった。幸いどんな時にもすぐ眠れる方なので、「立腹」を抱きながらもすぐ眠った。翌朝、自分に対する「立腹」は静まっていたので漸く澄代とも自由に口を利けたのである。

 

 趣味から起きた自分への立腹の顛末である。