遣僕使ブリュッセル便り(8)

 

国境でのデート

 

 

 

 今回、ブリュッセル教会での奉仕機関中に、パリに親しい牧師夫妻が来て約3週間滞在されることを知った。その時から、両方の都合が合えば、是非フランスとベルギーの国境付近で落ち合い、お昼を一緒にしたいと願っていた。

 

 

  相談の末、日時は決定した。問題は場所である。国境といっても、フランス・ベルギーの国境線は長く、国境沿いの街にいろいろである。そして国境でもフランス側で会うか、ベルギー側で会うかも選ばなければならない。声を掛けた小生たちがフランス側に行くべきだろうが、結局はベルギーを味わってもらう機会としてベルギー側国境で会うことになった。

 

 

  街の名は「モンス」である。ブリュッセルから鉄道IC列車で約50分の所である。一方パリからは観光案内によれば「タリス(高速鉄道)」で約1時間20分と書かれているので、IC列車を使っても2時間くらいだろうと思っていた。距離もブリュッセル、モンス間の3倍前後と考えて選んだ。ところが改めて手元にある小さな地図を見ると、パリ、モンス間はブリュッセル、モンス間の6倍はありそうなのに気付いた。それに気付いたのは、モンスの駅前のカフェで二人を待っている間である。このようにいつも気付くのが遅く後の祭りということばかりの小生である。72才の老人になっても成長せず、幼な子のままである。

 

 

  待ち合わせ場所は「モンス駅構内」とした。ところがモンスに到着して唖然とした。考えていた駅舎が全くなく、全面的建築中であった。それも基礎工事が終わった段階に見えた。これでは最初の約束の場所はないので、どうなるかと心乱れた。何とかプレハブの仮小屋のようなものがあり、一応駅構内と認められそうなので一安心した。そこで澄代がパリからの夫婦を待ち、上手く会えたのである。パリからの夫婦もモンス駅について戸惑ったが「仮小屋」を見つけて来たとのことである。

 

  パリからの夫婦に会って驚いたことがある。それはレンタカーでパリから来たとのことであった。小生の体調を心配し、帰りはブリュッセルまで送って下さる心積もりであった。

 

小生たちはパリから列車で多分2時間くらいで来られるだろうと、他の交通手段でを全く想像しなかった。どうしても人間は先入観をもって、それ以外は考えられなくなる。今回の国境のデートでもまたもや先入観を持ってしまった。小生たちはモンス駅の様子や昼食をとる場所を確認しておこうと約束の1時間ほど前に着くように家を出た。それでも午前9時に家を出た。そしてパリの夫婦も高速鉄道で来るとすれば同じ9時ころ、早くても8時に家を出ればいいだろうと思っていた。が実際は朝7時に出てきたと言う。こちらは悠々と出たにもかかわらず、友人夫婦は7時に出て長距離を高速で来てくれたのである。これまた後の祭りである。

 

  最後、またまた大失敗。小生たち夫婦で選んで入った「カフェ」で小生は待つことにし、澄代は「仮小屋」に戻った。小生は待つ間「ホットチョコレート」を頼み、それが美味しいのに感激していたが、しばらくしてこの「カフェ」は少し変なことに気付いた。それは客のほとんどがビールを注文している。ビール以外ではコーヒー、お茶、ホットチョコだけで、それを注文する客も稀である。誰も昼食らしいものを注文せず食べてもいない。その「カフェ」はパリなどで食事ができるいわゆる「カフェ」ではなく、ベルギーで言うビール中心の「ブラッスリー」だったのである。いかにもビール王国ベリギーらしい店ではあった。おいしいビールが味わえると言っても、二組のキリスト者夫婦が昼からビールに酔いしれることもおかしいので、早々にマダムにお詫びして店を出た。マダムはビール一杯も飲まなかった4人を快く送り出してくれた。その後近くのレストランで水で乾杯をし、約4時間の楽しい交わりの時を過ごした。

 

 

  国境でのデートは思わぬことと、小生の失敗ばかりだったが、最高の時となったのは事実である。