フーテン僕使ウィーン便り⑪

 

⑪ウィーンの雲

 

 

 

 当地に来てから2週間が終わった。その間ほとんどすばらしい青空の毎日である。抜けるように澄み切った青空である。

 

 しかし、その青空に雲が浮かぶことがある。以前にも記したように、大きな「ぽっかり浮かんだ」雲という感じである。どこかのんびりしているようである。急いでいる風はない。飛行船のようである。どうしてこんな雲が出来るのだろう。気象の相関関係によって出来るのだろう。この大きな浮かぶ雲はたまたま一日だけではない。何度も見るのである。だから小生はこの雲はウィーンの特徴の一つだろうかと思っている。

 

 雲はあわただしい毎日を過ごす地上の人たちに語りかけているようである。「そんなにせかせかしてどうする。ゆっくり私のように、風の吹くのに任せてごらん。どこに行くかは分からないが風に任せるのが一番さ」

 

 また子育てや仕事に疲れ果て、嘆いたり不平不満をならしている者たちにも呼び掛けているようだ。「下ばかり見ないで、ちょっと目を挙げてごらん。ほら、私が見えるだろう。大きな体を自分ではどうも出来ないのだ。でも風が責任を持って守ってくれるらしい。だから風様にお任せさ。あんたも落胆せず俺様の様子を見ててご覧。疲れがいやされて新しい希望に満たされると思うよ」

 

 雲は小生たちのような老旅人にも「焦ることはない。心配することもない。明日は明日の風が吹く。俺様は空の旅人さ」と語りかけてくれる。

 

 勿論こんなぽっかり浮かぶ雲だけではない。ほうき雲やうろこ雲、そして飛行機雲もある。ウィーンの雲は眼下の人間を見守ってくれるのである。