【新改訳改訂第３版】
使
23:12 夜が明けると、ユダヤ人たちは徒党を組み、パウロを殺してしまうまでは飲み食いしないと誓い合った。
23:13 この陰謀に加わった者は、四十人以上であった。
23:14 彼らは、祭司長たち、長老たちのところに行って、こう言った。「私たちは、パウロを殺すまでは何も食べない、と堅く誓い合いました。
23:15 そこで、今あなたがたは議会と組んで、パウロのことをもっと詳しく調べるふりをして、彼をあなたがたのところに連れて来るように千人隊長に願い出てください。私たちのほうでは、彼がそこに近づく前に殺す手はずにしています。」
23:16 ところが、パウロの姉妹の子が、この待ち伏せのことを耳にし、兵営に入ってパウロにそれを知らせた。
23:17 そこでパウロは、百人隊長のひとりを呼んで、「この青年を千人隊長のところに連れて行ってください。お伝えすることがありますから」と言った。
23:18 百人隊長は、彼を連れて千人隊長のもとに行き、「囚人のパウロが私を呼んで、この青年があなたにお話しすることがあるので、あなたのところに連れて行くようにと頼みました」と言った。
23:19 千人隊長は彼の手を取り、だれもいない所に連れて行って、「私に伝えたいことというのは何か」と尋ねた。
23:20 すると彼はこう言った。「ユダヤ人たちは、パウロについてもっと詳しく調べようとしているかに見せかけて、あす、議会にパウロを連れて来てくださるように、あなたにお願いすることを申し合わせました。
23:21 どうか、彼らの願いを聞き入れないでください。四十人以上の者が、パウロを殺すまでは飲み食いしない、と誓い合って、彼を待ち伏せしているのです。今、彼らは手はずを整えて、あなたの承諾を待っています。」
23:22 そこで千人隊長は、「このことを私に知らせたことは、だれにも漏らすな」と命じて、その青年を帰らせた。
23:23 そしてふたりの百人隊長を呼び、「今夜九時、カイザリヤに向けて出発できるように、歩兵二百人、騎兵七十人、槍兵二百人を整えよ」と言いつけた。
23:24 また、パウロを乗せて無事に総督ペリクスのもとに送り届けるように、馬の用意もさせた。
23:25 そして、次のような文面の手紙を書いた。
23:26 「クラウデオ・ルシヤ、つつしんで総督ペリクス閣下にごあいさつ申し上げます。
23:27 この者が、ユダヤ人に捕らえられ、まさに殺されようとしていたとき、彼がローマ市民であることを知りましたので、私は兵隊を率いて行って、彼を助け出しました。
23:28 それから、どんな理由で彼が訴えられたかを知ろうと思い、彼をユダヤ人の議会に出頭させました。
23:29 その結果、彼が訴えられているのは、ユダヤ人の律法に関する問題のためで、死刑や投獄に当たる罪はないことがわかりました。
23:30 しかし、この者に対する陰謀があるという情報を得ましたので、私はただちに彼を閣下のもとにお送りし、訴える者たちには、閣下の前で彼のことを訴えるようにと言い渡しておきました。」
23:31 そこで兵士たちは、命じられたとおりにパウロを引き取り、夜中にアンテパトリスまで連れて行き、
23:32 翌日、騎兵たちにパウロの護送を任せて、兵営に帰った。
23:33 騎兵たちは、カイザリヤに着き、総督に手紙を手渡して、パウロを引き合わせた。
23:34 総督は手紙を読んでから、パウロに、どの州の者かと尋ね、キリキヤの出であることを知って、
23:35 「あなたを訴える者が来てから、よく聞くことにしよう」と言った。そして、ヘロデの官邸に彼を守っておくように命じた。
パウロは、知恵を使って最高法院にいたパリサイ派とサドカイ派を衝突させ、その結果最高法院は大混乱に陥り、議会は中止になりました。パウロは事なきを得たのですが、翌日また新たな試練に立ち向かわねばなりませんでした。彼を憎む40人のユダヤ人が、暗殺を企てていたのです。しかし、パウロは千人隊長の兵舎に保護されているので、手出しができません。そこで彼らは祭司長、長老、最高法院と手を組んで、パウロを兵舎から引きずり出そうとしました。最高法院はほとんどパウロに敵対していた人たちの集まりだったので、彼ら40人におそらく協力してくれるでしょう。また、パウロを保護している千人隊長は、なぜパウロがユダヤ人に訴えられているのか、その詳細が知りたくてたまりません。最高法院が詳しくパウロを調べたいのなら、千人隊長は調べさせるに違いありません。彼ら40人の暗殺計画は一見、うまくいきそうですが、大きな弱点がありました。それは、この計画に参加している人数がとても多いということです。40人のユダヤ人、最高法院、祭司長、長老…おそらく、100人以上がこの陰謀に関わっていたでしょう。情報が洩れる可能性大です。実際、それはよりによってパウロの甥に漏れてしまいました。
パウロの甥は、「青年」（17）と呼ばれています。この言葉は、ギリシャ語で20～30代に使われることが多いそうです。しかし、19節には千人隊長が青年の手を引いている描写があり、さすがに30代の人の手はひかないだろうということで、この青年は10代だとする学者が多いです。いずれにせよ、「使徒の働き」の著者ルカは、男性の若さを強調して「青年」という言葉を使いました。この青年は、パウロを救い出すのに最適でした。彼は若く、パウロの親族だったことで、迅速にパウロに伝えることができたからです。兵営は、簡単に行き来できる場所ではありません。もし簡単に行けるなら、あの40人のユダヤ人も兵営に忍び込んで、パウロを殺しに行けばいいはずです。おそらく、屈強なローマ兵が兵営を守っていたでしょう。パウロの甥は親族であり、青年だったからこそ、ローマ兵も警戒心を解いて、彼をパウロのところに案内したのでしょう。
こうして彼はパウロのもとに行き、明日実行予定だった暗殺計画を知らせることができました。この未熟な若者を用いられたことは、実に聖書の神様らしいところです。旧約聖書で自信のないモーセ、気弱なギデオン、末っ子のダビデを用いられた神様と一致していると思います。また説教の準備の際、「もしかすると、このような時のためかもしれない」（エステル4：14）というみことばも思い出しました。若いからこそ神様にできることがあるのと同時に、年を重ねたからこそできることがあります。教会は、すべての年代の人がキリストのからだの一部であることを、今日改めて覚えたいと思います。
さて、千人隊長は青年からの密告を聞き、彼にこのことを誰にも言わないよう命じました。それは、ユダヤ人たちにばれないように、今夜中にパウロをエルサレムから移動させるためであり、また青年の命を守るためだったと思います。ここまで、千人隊長は立派な人物として描かれています。しかし彼が上司に宛てた手紙（26～30）を見ると、小さな嘘を並べつつ自分の良いところばかり書いて、上司の評価をあげようとしていることがわかります。彼から、人間の表と裏を知ることができるでしょう。最近、コロナウィルスの影響でマスクやトイレットペーパーの買い占めが起きるなど、普段の日本では考えられないようなことが報道されています。有事の際に、私たちが内に隠していた自己中心や愛さない心が露わになってくるのだと思わされました。
パウロの歩みには、神様に守られている人とは思えないほど試練があります。それは、この世界には悪魔の働きがあり、信仰者でさえ永遠の安息に向かう旅路の途中にあるからではないでしょうか。しかし、パウロには豊かな神様の守りがありました。私たちは、「思い通りにいく＝神様が働いている」と勘違いしやすいものです。しかしパウロの人生を見ると、敵の悪意でうまくいかない時こそ、神様のユニークな御業がなされました。ですから、私たちもこのような時こそ、神様に期待したいと思います。
また、今日のみことばから人間の計画の浅はかさを教えられます。悪者たちの綿密な計画は、青年によって打ち砕かれてしまいました。それは、神様が青年とパウロの側に立っておられたからです。信じる者に脱出の道を備えて下さっている主に信頼し、今週も歩んでいきたいと思います。
天の父なる神様、自分の力ではどうしようもない時、私たちは人生の岐路に立っています。あなたを信頼するか、もしくは絶望に負けて投げやりになるかです。パウロは、助かる見込みがないという状況から何度も助け出されました。私たちも困難の中であなたのみ救いを体験し、さらにあなたへの信仰を増し加えることができますように助けて下さい。（2020年3月1日礼拝 武田遣嗣牧師）
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