神に仕える幸せ サムエル記第一4章1~11節

【新改訳2017】

Ⅰサム

[ 4 ]

4:1 サムエルのことばが全イスラエルに行き渡ったころ、イスラエルはペリシテ人に対する戦いのために出て行き、エベン・エゼルのあたりに陣を敷いた。一方、ペリシテ人はアフェクに陣を敷いた。

4:2 ペリシテ人はイスラエルを迎え撃つ陣備えをした。戦いが広がると、イスラエルはペリシテ人に打ち負かされ、約四千人が野の戦場で打ち殺された。

4:3 兵が陣営に戻って来たとき、イスラエルの長老たちは言った。「どうして【主】は、今日、ペリシテ人の前でわれわれを打たれたのだろう。シロから【主】の契約の箱をわれわれのところに持って来よう。そうすれば、その箱がわれわれの間に来て、われわれを敵の手から救うだろう。」

4:4 兵たちはシロに人を送り、そこから、ケルビムに座しておられる万軍の【主】の契約の箱を担いで来させた。そこに、神の契約の箱とともに、エリの二人の息子、ホフニとピネハスがいた。

4:5 【主】の契約の箱が陣営に来たとき、全イスラエルは大歓声をあげた。それで地はどよめいた。

4:6 ペリシテ人はその歓声を聞いて、「ヘブル人の陣営の、あの大歓声は何だろう」と言った。そして【主】の箱が陣営に来たと知ったとき、

4:7 ペリシテ人は恐れて、「神が陣営に来た」と言った。そして言った。「ああ、困ったことだ。今までに、こんなことはなかった。

4:8 ああ、困ったことだ。だれがこの力ある神々の手から、われわれを救い出してくれるだろうか。これは、荒野で、ありとあらゆる災害をもってエジプトを打った神々だ。

4:9 さあ、ペリシテ人よ。奮い立て。男らしくふるまえ。そうでないと、ヘブル人がおまえたちに仕えたように、おまえたちがヘブル人に仕えるようになる。男らしくふるまって戦え。」

4:10 こうしてペリシテ人は戦った。イスラエルは打ち負かされ、それぞれ自分たちの天幕に逃げ、非常に大きな打撃となった。イスラエルの歩兵三万人が倒れた。

4:11 神の箱は奪われ、エリの二人の息子、ホフニとピネハスは死んだ。

 今日ははじめに、大学の入試問題に皆さんで取り組んでみましょう。

 

鉄製武器を最初に使用したことで知られるヒッタイトの滅亡は、製鉄技術が各地に広まる契機となった。ヒッタイトを滅ぼした「海の民」の一派で、製鉄技術をパレスチナに伝えた民族の名称()と、この民族を打ち破って、この地を中心に王国を発展させた人物の名()を記しなさい。

 

問題文が理解しづらいですよね。それもそのはず、これは2005年東京大学の入試問題です。下線の箇所に注目してください。まずヒッタイトとは、今から約3500年前に存在していた大国です。地図をご覧ください。一時期はとても広い範囲の国を統治していました。彼らは製鉄技術を独占しており、鉄のよろい、鉄のやり、鉄の剣を用いて、領土を拡大していったのです。

しかしそんなヒッタイトを滅ぼしたのは、海の民という最強のならず達です。海の民については今だ謎が多いのですが、彼らがヒッタイトから製鉄技術を奪い、それを周りの国々に広めたとされています。ではパレスチナ(今のイスラエルとその周辺)に製鉄技術を伝えた海の民の一派、その民族の名称はなんでしょうか。正解は今日の聖書箇所に登場するペリシテ人です。サムエル記の時代、このペリシテ人がイスラエルの海側の領土、その一部を占領していたのです。想像してみてください。大きな国を滅ぼし、鉄を用いる民族がイスラエルの領土を狙っている……イスラエルにとってどれほど恐ろしいことでしょうか,ちなみにこの問題の(b)の人物。ペリシテ人を打ち破って、この地を中心に王国を発展させた人物とは、ダビデです。ダビデはペリシテ人の大男ゴリアテを皮切りに、次々とペリシテ人に勝利しました。しかし今日皆さんと一緒にお読みする箇所ではイスラエルがペリシテ人に敗北してしまいます。その敗北の原因はなんだったのでしょうか。御言葉に聞きましょう。

先週の説教箇所はサムエル記3章後半でした。神様はサムエルの名前を呼び、彼に御言葉を語られました。それは耳に痛い御言葉でしたが、サムエルはそれを素直に受け入れ、応答しました。その結果、サムエルは神様の御言葉を伝える預言者として、立派に成長したのです。彼の語る御言葉は全イスラエルを行き渡りました。ペリシテ人がイスラエルに攻め込んできたのは、そんな時です。彼らは戦争を得意としている上に、鉄の武器を操るので、イスラエルは勝てるはずがありません。2節にはこの戦争がもたらしたイスラエルの悲惨さが書かれています。イスラエルは四千人の兵士を失ってしまいました。

 イスラエルの長老達は70人いて、王様や祭司と共にイスラエルの政治的な決断をするリーダーでした。彼らは今後の対策を考えて、一つの結論に辿り着きます。「契約の箱」を戦場にもってくることです。契約の箱は、イスラエルのシロにある神殿に安置されていました。契約の箱は神様がイスラエルと共におられることの象徴です。神が共におられる象徴である契約の箱。これを戦場に持ち出せば勝利できるのではないか。長老達は前代未聞の決断をしました。

 しかしこの決断には二つの大きな問題がありました。一つ目は御言葉を聞いた上での決断ではないことです。41節には全イスラエルがサムエルを知っていたと書かれています。にもかかわらず、長老達は政治的な決断をする時、御言葉を聞かず、自らの考えだけで決断しました。

 この決断の問題点、二つ目は、「神を道具として扱っていること」です。3節「持ってこよう」というヘブル語は道具に対して使われます。長老達は神の箱を戦場にもっていき、人々の士気を高める道具として利用したのです。イスラエルは御言葉を聞かないで、神を道具のように利用したのでした。契約の箱が戦場のイスラエル陣営に到着した時、イスラエルはドッと大歓声を上げます。もし小説やドラマの世界ならば、必ず勝利する展開といえるでしょう。戦場で敗北しそうなところに、神の箱が到着し、人々が大歓声を上げる……しかし神様はイスラエルの信仰の本質を見抜いていました。この大歓声は信仰から出たものではなく、「戦場に契約の箱が来た!」という前代未聞の光景への興奮だったのです。

結論に移ります。イスラエルの脅威はペリシテ人だけではありません。この地図の下からはエジプト、そして上からは大国がイスラエルの領土を狙っています。イスラエルはアフリカ大陸とユーラシア大陸を繋ぐ位置にありました。交通の要所です。どの国もイスラエルの領土を狙っていました。島国日本に住んでいる私達には分からない緊張感が常にあったことでしょう。

 イスラエルはあらゆる問題、あらゆる敵から一度目を離し、目に見えない神様を見上げることで、平安を得ることができたのです。なんとかこの地で生き続けることができたのです。しかしこの第一サムエル記4章において、イスラエルは神を忘れ、御言葉を聞かなくなり、目に見える物だけに救いを求めるようになりました。目に見えない神様への信仰を失った時、人は「目に見える恐怖」に怯え、心配するようになります。

宗教改革者ルターはこんなことを言いました。『今日はすべきことがあまりにも多いから、一時間ほど余分に祈りの時間を取らなければならない。』忙しい現代人からすれば、あまりにのんびりしていると感じるかもしれません。しかしルターにとって最も恐ろしいことは、忙しさのあまり、目に見えない神様を忘れてしまうことでした。そうなれば、あのイスラエルの長老達のように、目に見えるペリシテ人という恐怖におびえ、自分の判断で大きく道を踏み外してしまうかもしれません。主は私達に「やめよ。私こそ主であることを知れ。」と仰います。礼拝、日々の祈り、日々の御言葉を大切に歩んでいきましょう。そして目に見えずとも、最も偉大な神様をいつも見上げようではありませんか。(2020927日礼拝 武田遣嗣牧師)